昭和初期、探偵・怪奇小説の挿絵で大衆画壇の一時代を築き、戦後は山梨県内で労働運動家としても活躍した画家竹中英太郎氏(一九○六-八八年)の画業を紹介する「湯村の杜 竹中英太郎記念館」が四月十日、甲府市湯村三丁目にオープンする。館長を務めるのは英太郎氏の二女金子紫(ゆかり)さん。戦前の代表作から、戦後に長男労氏(九一年死去)の依頼で描いた装丁画やポスター原画まで、さまざまな作品と出合えるプライベート・ミュージアムで、甲府の新たな観光スポットとしても注目を集めそうだ。
竹中氏は福岡市生まれ。十七歳で上京し、川端画塾に入門。二八(昭和三)年ごろから、雑誌「新青年」を中心に江戸川乱歩や横溝正史、夢野久作などの小説に斬新妖美な挿絵を描き、一世を風靡(ふうび)した。三五年、突然筆を折って満州へ渡ったが、四年後に帰国。四二年、甲府に疎開した。本格的に創作を再開したのは六七年。ルポライターだった労氏の依頼で、労氏の著書の表紙画やポスターなどに幻想的な作品を描いていた。
戦後描かれた作品は労氏が保管、作品の散逸を防ぐため美術館などでの一括所蔵を希望する遺言を残した。遺志を受け継いだ紫さんは一時、旧中巨摩郡白根町(現南アルプス市)に作品を寄託。寄託期間が終わった後も白根桃源美術館収蔵庫での保管を依頼してきた。一方で「父の絵や兄の本を一緒に展示、収蔵できる美術館をつくりたい」との夢を持ち続けていたという。
美術館は二階建てで、延べ床面積は約六十八平方メートル。富士山や湯村の街並みを一望できる竹中家の別棟を改装した。展示する戦前作品は江戸川乱歩の「陰獣」の挿絵をはじめとし、横溝正史の「芙蓉屋敷の秘密」などを予定。戦後作品は五木寛之原作の映画「戒厳令の夜」で使われた油彩「悲しみのマリア」「熟れた果実」など。戦後は油彩やテンペラ(顔料をにかわなどで練った絵の具)を使ったため、色彩は鮮烈で幻想的。女性やチョウ、沖縄の民俗などをモチーフとしている。作品は季節ごとに展示替えする計画で、画材や扇子、色紙などの展示も検討している。
紫さんは「多くの人に、何度も足を運んでもらえるような温かい雰囲気の美術館にしたい。湯村は父が選んで何十年と住んだ場所。地域の活性化に少しでも貢献できればうれしい」と話している。
開館時間 10:00~16:00 火・水曜日定休
入館料 300円(高校生以上)、200円(小・中学生)
臨時休館することがございますので、館長日記やお知らせをご確認くださいますようお願いいたします。
甲府市湯村3-9-1
電話 055-252-5560
竹中英太郎記念館公式ホームページ